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支援犬の妥当性など

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従来の補助犬は、年単位の長い訓練期間を要しました。それでもなお実際に補助犬として認定される犬は限られます。盲導犬などは屋外で、確実に周囲の危険性を通知しなければならず、当然です。しかし、認知症支援犬は基本的には、屋内が多いと考えられます。屋外で使われた場合でも、認知症が中軽度であれば、飼い主自身に基礎的な視聴覚や危険察知能力は残されていることが多いです。犬にICT機器を搭載し、役割を選択すれば、特別にすぐれた能力を持つ犬は必ずしも必要とせず、比較的短期間で支援犬になれる可能性もあります。

現在、家中に複数のカメラやセンサーを張り巡らし、高齢者などを対象としたスマートハウスの研究がされています。ロボット犬なども開発されていますが、きわめて高価で、遂行できる機能も限定されています。さらに、日本の家屋は狭く、迅速に階段を登ったり、庭に出たり、障害物を乗り越えてロボットが移動するのは、当面、困難と言わざるを得ません。一方、犬はこれらが簡単にできます。
従来、犬にカメラなどを搭載、さらに通信ネットワークと連携して、危険な場所や通常とは別の視点から映像などをとる試みがあります。これらはバイオロギングと呼ばれる領域です。実際に米軍はカメラと通信機能をベストに付け、それを着用させた偵察犬のアイデアを出しています[12]。
今回、我々はカメラだけでなく各種センサーやPCなどのICT機器を登載すれば、認知症、高次脳機能障害、一般高齢者などに対し、情報支援のみでなくADLやQOLなどの支援も可能になると考えました。動物にICT機器を登載させ、幅広く生活を支援するという提案は、世界で初めてだと思います。

以上の考えに対し、犬に過度の負担をかけ動物虐待につながるとの批判も出るでしょう。しかし、犬は寒冷地ではそり犬として、あるいは車椅子を引く介助犬として、体力を必要とする業務もこなしています。盲導犬はハーネスを装着され予期せぬ危険性が待ち受ける屋外で、長時間の任務を遂行しています。これらは犬にとって負担ですが、愛着をもって訓練すれば犬は飼い主を助けたいという気持ちを持つようになります。
認知症を発症すると、当人や介護者に耐えがたいストレスが生じます。しかし、そのような苦境にあっても多くの認知症者は犬を愛することができます。犬もそのような認知症者を助けたいという気持ちを持つ筈です。ICTを搭載することで、犬のその気持ちが具現化できると考えます。

支援犬と暮らすことでADLが自立できると同時に、犬という実際の生き物と触れ合うことから生まれる充足感や癒しは、機器やロボットからは得られません。犬とコミュニケーションをすることで明るく元気になることも多いです。最近、犬を飼っている高齢者のほうが飼っていない方にくらべ、より健康であるとのデータが出ました[1]。これは犬の世話や散歩が身体面の機能維持にも良い効果があることを示します。
最近、数カ月間犬を預かり専門家が訓練する施設などが増えてきました。出張訓練も行われています。訓練用首輪やしつけ方法を紹介しているDVD、専門誌なども多く市販されています。ネット上ではしつけ方法の取得や情報交換もできます。これらを活用すれば、一般の犬愛好家もより良いしつけができるとともに、紹介した支援案の一部を遂行できる犬を育成できるかもしれません。以上より、私たちは認知症支援犬の妥当性、必要性、育成可能性は高いと考えました。
今回の目的のためには、認知症ケアの関係者や当人、介護者などの要望のもとに、工学関係者やICT関係者に専用のソフトやアプリを開発してもらう必要があります。工学関係者が訓練士などの意見を参考に、より洗練されたソフトやシステムを作り、それらの適応を協力者に依頼するなどの体制が必要です。

認知症への支援法の開発・充実は世界的な急務です。犬の訓練には時間がかかりますが、少数の訓練士やボランティアによる個別的な訓練では発展や普及が遅れます。そのため、このホームページで、私たちは認知症支援犬の具体的な支援案を、現在予想できる限り紹介しました。英文ページも設けました。それは、世界中の有志の訓練士やボランティアに支援犬の育成を試行してもらう、その試行結果を各種学会や当ホームページで発表してもらう、そしてより良い訓練手技やソフトの開発、さまざまな家庭や施設への適用、新しい支援方法の構築につなげたいからです。
犬も生き物である以上、食事、排泄、入浴、散歩、予防注射、不妊処置、病気時の対応などが必要です。支援犬が人を襲わないこと、支援犬であることを周知する胴衣?などを付けること、犬にしっかり指示を出すことも重要となります。従って、認知症支援犬は同居介護者がいる場合の方が適応しやすいでしょう。さらに、施設などで施設長の指示の下に、支援犬が入所者を支援することも実用性が高いと思われます。
一人暮らしの認知症者では、餌の提供や排泄の後始末など、犬の世話や管理に不安が生じる。そこで、餌やり、散歩などの日課はICレコーダーからそれらを出し、飼い主に遂行を促すことも必要です。自動餌やり装置なども使っても良いでしょう。将来、自動排泄介助装置や入浴装置ができ、それらの場所に犬がいけば、自動的にそれらができるようになる可能性もあります。
さらに、予防注射などの不定期的な用件は、近所の愛犬家のボランティアに介入してもらい、遂行をうながします。病気を含めた犬のケア全体も見守ってもらいます。将来、介護保険で派遣されたヘルパーなどが、犬の世話もできるようになると良いですね。犬も病気になります。民間企業による健康保健制度なども活用しましょう。
「高次脳機能障害や忘れる人は補助犬の飼い主として、認められない」とのネット上の記載がありました。これは一般論としては正しいですが、それをどのように克服するかを、今後工夫してくべきです。いづれにせよ認知症者が飼い主である場合には、飼い主、補助犬、ICTをそれぞれ世話し管理する訓練士、ボランティアやヘルパーが必要となります。
犬の種類にもよるが10年間は補助犬として活躍できるとされます。しかし、犬も寿命が延び、犬自身が認知症を発症することが増えてきました。犬が認知症を発症したときの対処を考えておくべきです。引退した補助犬専用施設への入所や、引き取り犬ボランティアなども必要となります。
研究費が得られれば、工学系の研究者へより簡単で小型の機器やソフトの開発を依頼します。さらに、訓練士や育成機関に有償で認知症支援犬の育成を依頼する、登載予定の機器を貸し出す、一般向けに育成法の講習会を開催するなどの事業もできます。そして、多くの支援犬を育成し、実際に認知症者宅や高齢者があつまる施設などで効果を検証したいです。
今までの補助犬は、少数の訓練士によって育成され、主に視聴覚の障害がある方に適応されてきました。急増する認知症の方にも適応できるとなれば、より多くのニーズを生み、より多くの訓練士と新たなネットワークを必要とし、結果的により大きい産業分野へと発展することも期待できます。
以上の考えは犬だけでなく、猿、猫、鳥などにも応用できます。さらに従来の盲導犬、聴導犬、介助犬などにもICTを搭載することで、あらたな機能性を追加できる可能性もあります。例えば、信号の色がわかりにくいとされる盲導犬に色の判別システムを付ける、犬のGPSから現在地を利用者に通知するシステムなどが考えられます。基礎的しつけの段階から、犬にICTを登載して慣れさせておくのが良いかもしれません。


 最後に、獣医師白銀大二氏の本認知症支援犬案への意見を紹介します。
・盲導犬は道路状況などで自主判断がいる。これに比較して認知症支援犬ははるかに育成が容易である。
・音の違いを認識して、違う行動をすることは犬にとっては容易である。
・財布などの物とその臭いなどを覚えさせ、その言葉で探させることは十分に可能であろう。
・捨て犬などでも適性があれば比較的短い期間で育成可能だろう。2,3才の犬でも適性があれば育成できよう。
・飼い主の支援犬に対する態度が重要である。認知症の飼い主が、犬に対して適切な態度が取れるかどうかが懸念される。
・そのため、在宅での犬と飼い主との1対1の関係よりも、高齢者施設で施設長が”ボス”となって犬を指導し、施設の利用者の支援をさせるという3項関係の方が、導入が確実と思われる。
・認知症支援犬の実現は、犬の訓練士が重要となろう。最初のモデル犬は、プロの訓練士に育ててもらうべきである。
・この提案は試みる価値がある。